静岡県立大学大学院国際関係学研究科附属グローバル・スタディーズ研究センターのStudy CIRcle 2020「グローバリゼーションと民主主義」ではテーマの追究に欠かせない論者をお招きして連続講演会を開催いたします。今回は教育哲学者の鈴木大裕氏です。鈴木氏はグローバル化と併せて各国の行政を席巻する新自由主義の負の側面に注目します。教育哲学者らしい批判精神で新自由主義的な教育政策が実施される公教育に警鐘を鳴らします。本講演会を通じてアカウンタビリティ、グローバル・スタンダード、ゼロトレランスなど公教育を取り巻く数値化、標準化、商品化に懐疑的であるべきことに気づかされるでしょう。
1973年神奈川県生まれ。米国ニューハンプシャー州の高校を経て、ニューヨーク州のリベラルアーツカレッジであるコールゲート大学教育学部卒業。米国スタンフォード大学教育大学院教育哲学科修士課程修了。2002年から2008年まで千葉市の公立中学校教員。2008年より米国コロンビア大学教育大学院博士課程在籍(米国フルブライト奨学生)。2011年より同大学の教育哲学者マキシン・グリーンの助手として教育哲学とアートを繋ぐ大学院授業を担当。その傍らで東日本大震災復興支援団体や教育アクティビストネットワークを立ち上げる。帰国後教育研究を継続しつつ、2019年の高知県土佐町議会議員選挙に立候補しトップ当選を果たす。教育を通した町おこしに取り組んでいる。
(単著)鈴木大裕『崩壊するアメリカの公教育―日本への警告』岩波書店、2016年。(共編)横湯園子、鈴木大裕、世取山洋介『「ゼロトレランス」で学校はどうなる』花伝社、2017年。
(共著)大貫耕一、白神優理子、氏岡真弓、佐々木仁、鈴木大裕『学校と教師を壊す「働き方改革」―学校に変形労働時間制はいらない』花伝社、2020年。(共訳)ケネス・エイゲン(著)、鈴木琴栄、鈴木大裕『音楽中心音楽療法』春秋社、2013年。
鈴木大裕はアメリカの公教育が経験する困難を崩壊と呼び、その実態と背景となる新自由主義教育改革の問題を白日の下に晒して対抗に向けた実践を進める。公教育をビジネスに変えることで、フランチャイズ型の公設民営学校にヘッジファンドが群がり、子どもたちは複数の学校をたらい回しにされ、教員は使い捨ての労働者と化す。ニューヨークのハーレム地区に住み、世界で最も裕福な国において教育の圧倒的な不平等を目の当たりにする。市場型教育改革の負の側面に対し、親としてニューヨークの貧困地区の学校づくりに参画し、アメリカ公教育の崩壊を止めようと力を尽くす。さらには教育哲学の研究者として、公教育の民営化を中心とする教育改革を批判し、その政策を構造的に支える新自由主義と<距離のテクノロジー>としての数値化<アカウンタビリティ>さらには<グローバル・スタンダード>との密接な関係に迫る。人々の子弟に向けた足元の教育が<グローバル・スタンダード>で遠隔評価される歴史的かつ構造的な背景を解き明かすに際し、教育と教育行政をつなぐ直接的なメカニズムが新自由主義の構造の中で再生を困難にしている実態を看破する。この構造の直接的被害者にマイノリティの子どもや家庭があり、<ゼロトレランス>政策が彼らに強いる残虐性を明らかにする。これは民主主義を取り戻すための抵抗であり、日本にとっても対岸の火事であろうはずがない。