本センターは、センター設立10周年記念企画として、<グローバリゼーションの反動による他者排斥型ナショナリズムの研究>連続公開シンポジウム「逆流するグローバリゼーションにゆれる市民権 世界各地で他者が排斥される時代の市民権とはなにか」を開催いたします。
国際関係学研究科附属グローバル・スタディーズ研究センター 湖中 真哉
近年、英国のEU離脱、米国のトランプ大統領の台頭にみられるように、世界各地で移民・難民排斥や、外国人嫌悪等の他者排斥型ナショナリズムが勃興しています。こうした動向は、多文化共生、国際協調、人権の擁護、異文化との共存等のこれまで人文・社会科学者が追求してきた方向にとっては大きな逆境と言わざるを得ません。しかし、これまでこうした問題は、メディアではおもに「ポピュリズム(大衆迎合)」の問題として論じられてきました。
こうした問題に対して、わたしたちは、他者排斥型ナショナリズムを理解するためには、冷戦体制崩壊後、顕著になったグローバリゼーションと、それが引き起こした様々な負の影響にも目を向ける必要があると考えました。グローバリゼーションが文字通り世界規模の一体化現象であるとしたら、今まさに、世界中で同時多発的に起こりつつあるのは、グローバリゼーションへの反動であると考えられます。いわば、世界各地を外に開く波であったグローバリゼーションが、今度は、各国の内側に向かって逆流を始めたのです。
このような考えにたち、わたしたちは、昨年度に9回の連続公開セミナーを実施しました。そこで明らかになったのは、世界各地の国家は、ブレクジット・トランプ期より以前から、それぞれの国家の国益との関係のなかで、移民や難民を受け容れたり、制限したりする試行錯誤を繰り返してきたことでした。わが国においても、人口減少社会の到来とともに深刻な労働力不足が既に全国各地で起こっています。そして、不足する労働力を補うために、外国人労働者を積極的に受け容れるべきだとする意見と、それには慎重になるべきだという意見が対立しています。そしてそれは、人口減少の深刻な影響が懸念されているわたしたち静岡県民にとっても重要な課題と言わねばなりません。
昨年度の連続公開セミナーからわたしたちが学んだ重要な成果のひとつは、外国人労働者は決してたんなる労働力ではなく、市民権をもった生身の人間として扱われなければならないと言うことでした。世界各地で発生している移民や難民の受け容れに関する衝突の多くは、この市民権を十分に考えてこなかったことに起因すると考えられます。移民や難民の受け容れに対して積極的であるべきだと考えるにせよ、慎重であるべきだと考えるにせよ、移民や難民をたんなる労働力としてみる立場を越えて、ブレクジット・トランプ期以降の移民や難民の市民権の在り方を改めて考え直してみる必要があるとわたしたちは考えました。
今年度の連続公開シンポジウムでは、4つのミニ・シンポジウム形式の報告と討論を通じて、グローバルな地球規模の比較考察とローカルな静岡県の地域社会研究の両面から、ブレクジット・トランプ期以降の外国人市民権の在り方を考えます。外に向かう波であったグローバリゼーションが内に向かい始めた時、世界各地では移民や難民の市民権をどのように考えてきたのでしょうか。また、外から内に逆流するグローバリゼーションの波に翻弄されながら、移民や難民はいかにして市民権を確保してきたのでしょうか。本年度の連続公開セミナーでは、静岡県焼津市で水産加工業に従事する外国人労働者の問題も扱われます。幅広い地球規模の視野に立つ一方で、わたしたちにとって身近な地域の問題を考えてみたいと思います。