本研究センターは、成城大学グローカル研究センター・成蹊大学アジア太平洋研究センターとの共催で、<グローバリゼーションの反動による他者排斥型ナショナリズムの研究>連続公開セミナー「逆流し始めたグローバリゼーション 今なぜ世界各地で他者が排斥されるのかを考える」を開催いたします。
国際関係学研究科附属グローバル・スタディーズ研究センター 湖中 真哉
近年、英国のEU離脱、米国のトランプ大統領やフィリピンのドゥテルテ大統領の台頭にみられるように、世界各地で移民・難民排斥や、外国人嫌悪(xenophobia)等の他者排斥型ナショナリズムが勃興しています。わが国においても、外国人や移民・難民を排斥しようとする動きが活性化しています。こうした動向は、多文化共生、国際協調、人権の擁護、異文化との共存等のこれまで人文・社会科学者が追求してきた方向にとっては大きな逆境と言わざるを得ません。しかし、これまでこうした問題は、メディアではおもに「ポピュリズム(大衆迎合)」の問題として論じられてきました。
こうした他者排斥型ナショナリズムを産みだしたのが、仮にポピュリズムだとしても、それだけでは十分な説明とは言えません。それでは、なぜ、今、世界各地で同時多発的に、他者排斥型ナショナリズムを主張する政治的リーダーが民衆の間で急速に人気を集め、なぜ彼らが支持されるようになったのかを考えてみなければ、この問題の本質にはアプローチできません。
それを理解するためには、冷戦体制崩壊後、顕著になったグローバリゼーションと、それが引き起こした様々な負の影響にも目を向ける必要があります。大衆の無知を嘲笑するだけでは何もうまれません。もちろん、地域によって状況はそれぞれ異なりますが、グローバリゼーションが文字通り世界規模の一体化現象であるとしたら、今まさに、世界中で同時多発的に起こりつつあるのは、グローバリゼーションへの反動(counter-reaction)であると考えられます。いわば、世界各地を外に開く波であったグローバリゼーションが、今度は、各国の内側に向かって逆流を始めたのです。これは、これから世界秩序が大きく変動していく兆しなのかもしれません。
この連続セミナーでは、学際的グローバリゼーション研究(global studies)の立場から、たんに一部の政治的リーダーが扇動したポピュリズムの結果としてではなく、冷戦崩壊期以降、急速に進んだグローバリゼーションに対する反動の潮流として、こうした現象を学際的に分析することを試みます。そこでは、共通課題として、グローバリゼーションがこれまでもたらしてきた負の影響に目が向けられることになるでしょう。また、こうした現象は世界中で同時多発的に発生しているため、地球規模の比較研究の視座が不可欠です。この連続セミナーでは、わが国のみならず、ヨーロッパ、北米、南米、東南アジア、アフリカ、オセアニア等、地球規模の地域間比較研究の視点からアプローチすることを試みます。
なぜ、他者排斥型ナショナリズムが、現在、世界で同時多発的に起こっているのでしょうか。こうした動きは、グローバリゼーションとどのように関係しているのでしょうか。こうした動きを踏まえると、わたしたちは、今後さらにグローバリゼーションを推進すべきなのでしょうか、それとも行き過ぎたグローバリゼーションを阻止すべきなのでしょうか。それとも現状とは異なる別のグローバリゼーションの在り方を展望してみるべきなのでしょうか。そして、対等な市民レヴェルにたって他者との共生を目指す(multiculturalism from below)人文・社会科学の新たな課題とは何でしょうか。こうした課題について、皆さんと一緒にいっしょに考えてみたいと思います。