静岡県立大学大学院国際関係学研究科附属グローバル・スタディーズ研究センターでは、「国際社会から見た日本の表現の自由とメディアの問題」公開講演会を下記要領で開催します。
現在、日本における人権認識、とりわけ表現の自由が懸念されている。2013年に秘密保護法が採択され、今年の4月には表現の自由に関する国連特別報告者、デビッド・ケイ氏による公式調査が行われ、メディアの独立性の危機や秘密保護法の問題など、広範囲の問題に関して厳しい中間報告が発表された。講師は当調査をはじめ表現の自由に関する国連の活動に深く関与してきたため、これまで市民団体による一般市民に向けた各地の講演会で、日本に対する国際的評価などについて紹介し、「海外からの視点が衝撃的で知らないことが多かった」「目が開かれた」という前向きな感想を多く得てきた。他方、一般の学生の多くは、日本は安全で平和だと思い込み、表現の自由を当然のものと考え、秘密保護法の存在さえ知らない学生が圧倒的に多い。そして学生は市民団体の企画にはほとんど足を運ばない。
しかし2013年から定期的に日本語と英語で早稲田大学、立教大学、明治大学で、そして2016年6月から7月の3週間で11の大学にゲスト講師として招聘を受けて同様の内容の授業を行った際、学生たちがショックを受けて問題に気付き、メデイアに対する見方も変わり、批判的思考の重要性を理解できた、という反応を得た。講義で意識づき、さらに話を聞くために講演会に来た学生もいた。本講義は、一般向けの講演会とは別に授業の枠で講義することで、学生にとって、国際的視点から日本の問題について考え、気づきの機会とすることを目的とする。
国連特別報告者による日本の表現の自由への関与は、2013年11月に日本政府に提出された秘密保護法に対する国連の公式声明に始まる。講師はこの声明作成から今回の日本公式調査に至るまで、国連に情報提供して働きかけを続け深くかかわってきた。講義ではそのような背景に基づき、国連・国際社会から見た日本の表現の自由の問題について主に次の点について説明する。
またメディアの独立性に関するケイ氏の勧告は、日本政府に加えてメディア自身にも向けられたものであった。つまり近年、日本のマスコミが自主規制によりpublic watch dogとしての役割を果たしていないという深刻な問題がある。よって講義ではイギリスなどのメディアから具体的な題材を用いて、民主主義の根幹として本来メディアが果たすべき役割を紹介する。加えて、今年6月に行われたイギリスのEU国民投票におけるメディアの影響や国民投票の危険性を日本の憲法改正国民投票の可能性と関連づけて言及する。本講義では、受講生が理解を深め、内容を身近に感じられるように国連の映像やケイ氏のインタビューやメッセージなどの映像も適宜用いる。